アイティーフィットの対面開発が現場の課題に柔軟な解決策を提示

 北は北海道・札幌から南は沖縄・那覇まで、全国各所に支店を構えている弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所では、オンプレミス環境で運用してきた弁護士事務所専用のソフトウェアパッケージを刷新。新たにkintoneをベースに利益相反や事件管理など業務に必要な各種アプリケーションを、アイティーフィットとの対面開発にて実装することに成功している。今回、業務基盤のシステム刷新に至った経緯について、弁護士 岩元 雄哉氏、総務部 大野 昌人氏、総務部 羽賀 直人氏および事務員の 中山 明日香氏にお話を伺った。

【課題】複数のツールで情報が分散、業務効率化の面でオンプレ環境の改善が必要に

 いつでも誰でもどこからでも法的サービスが受けられる「法の支配」実現を目指し、全国に支店を展開している弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所。1972年に千賀法律事務所としてスタートし、現在は不動産や遺産相続といった一般民事を中心に、個人法人問わず顧客が抱える課題に対して法律家の立場から支援を行っており、さまざまな紛争や法律問題の解決および予防するたるための知見を数多く有している。また、弁護士のみならず、税理士や行政書士、司法書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、不動産鑑定士など多彩なメンバーが所属しており、税務や登記といった法的手続きを含む複雑な紛争であっても、ワンストップで解決できる強みを持っている。

 そんな同事務所では、以前からオンプレミス環境で運用している業界特化型のパッケージを活用し、業務を運用してきた経緯がある。「本店が中心となって業界に特化した専用パッケージを活用してきましたが、支店では独自の環境で運用しているケースも多く、情報が分散していたことで無駄な業務も散見されていました」と大野氏は課題について語る。岩元氏も「全国的に標準的な業務のやり方を行き渡らせるには、以前から所内にサーバーを置いて運用する方法では限界があるという話は聞いていました。我々弁護士だけでなく、システムを使う事務員の利便性も高めていく必要があったのです」と説明する。弁護士業務に関しても、担当者ごとに案件に関する進捗状況が見えづらく、担当弁護士が普段在籍していない本店に問い合わせがあった場合は迅速に回答することが困難な状況だったのだ。

 事務所にて業務を行っている事務員においては、契約書などの書式は従来の専用ツールを使い、問い合わせに関してはExcel上に起票、顧客管理は別途グループウェアに入力するなど、運用するツールがバラバラであり、専用ツールを使っていない支店などには契約書などの書式を別途送るなどの手間もかかっていた。「重複したデータが個別のツールに点在していることで情報が探しにくく、同じ情報を何度も入力することでミスも発生しうる状況にありました。できれば、本店支店が共通した情報基盤にアクセスでき、それぞれ入力できる環境が求められていたのです」と中山氏は語る。顧客ごとに利益相反がないかどうか確認する際にも、複数のツールを確認して抜け漏れをチェックせざるを得ない状況だったのだ。

 システム管理を行っている羽賀氏も、「所内に設置された古いOS上で動くアプリケーションをベースに顧客管理を行っていたため、サポートに関する課題がありました。万一の災害時における対策も必要で、全国に展開する支店からもアクセスできる環境があれば売上管理なども含めた業務の効率化につながります。システム面からも新たな環境が求められていたのです」と説明する。

【選定】kintoneでの対面開発が、要件定義に落とし込めない現場に最適なアプローチ

 そんな折、同事務所の代表がクラウドサービスに興味を持ち、ITコンサルタントから提案を受けたことが新たな基盤づくりのきっかけだったと大野氏。「以前導入していたパッケージは、小規模向けの環境に適したもので、全国展開を行っている我々にとって今以上に拡張していくには難しい面も。そこで、クラウドサービスを前提に、新たな環境を検討することになったのです」。

 当初はクラウド環境で動作する業界特化型のソリューションを検討したものの、ライセンスが非常に高額だったこともあり、自社開発できる環境を模索。「一般的な専用ツールは、交通事故や離婚事件といった用途別に特化したものが多い。一般民事を幅広く扱っている事務所だけに汎用的な機能が必要で、ある程度カスタマイズが必要だと当初から考えていました」と大野氏。そこで注目したのが、柔軟にアプリ開発が可能なサイボウズが提供するkintoneだった。

 自社開発を行うためには、プラットフォームとしてのkintoneを使って業務システムを構築できる開発のパートナーの存在も重要だった。そのなかで選ばれたのが、kintoneの活用に精通しているアイティーフィットだった。「具体的な課題を説明したところ、それをきちんと理解したうえで、すぐに具体的なフローに落とし込んでいただき、イメージしやすかったのは大きい。対面開発にて具現化していうというアプローチ手法についても高く評価したのです」と大野氏。中山氏も「一から作るにあたって、こんなものが欲しいと要望を出せば、いろんなアプローチを提案していただけました。顧客情報とメールを連携させるといった、これまで考えていなかったことまで提案していただけたことで、情報の一元管理がより進むのではと期待できたのです」と説明する。

 現場業務を熟知しているもののITには詳しくない事務員やスタッフが多いだけに、要件定義などに落とし込むことが難しいことが想定され、対面開発という手法は同事務所にマッチした方法だったと羽賀氏は説明する。「仕事の流れを把握しているメンバーがその場で意見を出すだけで、その場で画面に落とし込んで見せてくる対面開発は、我々にとって最良の手法だと考えました」。

 結果として、現場のメンバーから直接課題をヒアリングし、その場で作り込んでいくためのkintone開発パートナーとして、業務システム開発に強みを持つアイティーフィットが選ばれることになったのだ。

【効果】対面開発でなければ挫折の可能性も、アイティーフィットの具現化する力を評価

 今回は対面開発を中心にアプリ開発を行っており、現在も継続して定例会を開催し、その都度新たな開発依頼や改善要望などを確認しながら業務効率化に寄与する機能を追加している状況だ。現状kintoneにて実装しているのは、依頼者の相談事が他の顧客の利益相反に当たらないかどうか確認するための利益相反アプリをはじめ、依頼者の相談履歴を記録する法律相談アプリや顧問先から依頼を受けている契約書チェックや相談事などを管理する顧問管理アプリ、そして、依頼を受けた案件を管理する案件管理アプリ、事件番号が裁判所から通知された段階で記録する事件管理アプリ、そして着手金や報酬、立替金など案件ごとの収支を一括管理する収支管理アプリなどだ。

 また、事務所に寄せられた声をまとめておくご意見アプリや多くの郵送物に貼付するタックシールを発行するアプリのほか、裁判所に提出する帳票などはクラウド帳票フレームワークのOPRO ARTSにて設計、出力を実施、Excelに手作成された契約書の帳票に対してkintone内の情報を取り込み、条件で分岐させながらクラウドストレージへ保存するといった高度なカスタマイズも行っている。

 今回kintoneによって情報の一元管理が進んだことで業務効率化に大きく貢献しており、仕組みが統一できたことで新たなメンバーが加わった際の教育面でも負担も大きく軽減しているという。特に利益相反が発生するかどうかを調べる際には、複数のツールを駆使してチェックしていた以前に比べて格段に精度が向上しており、作業負担も半分程度にまで削減できている状況だ。

 対面開発を行ったアイティーフィットについては「以前導入していた専用ツールの機能に近い仕組みを目指していましたが、Excelで行っていた周辺業務も含めて網羅していくべきだと提案いただきました。そこまで柔軟に作り込めるという技術力だけでなく、視野を広げていただけた点も高く評価しています」と中山氏。また自由度の高いkintoneだけに、事務所独自で入力しやすい環境が整備でき、これまでシステムで作れなかった帳票にも対応できるようになったと評価の声が現場から寄せられている。作業履歴もきちんと把握できることで、誰が修正したのか一目で確認できる点も中山氏にとっては大きい部分だという。

 対面開発の魅力については、「弁護士としての業務は理解していても、それを全て言語化して要件にまとめていく手法では、おそらく挫折していた可能性も。もしできたとしても、完成したものがイメージと異なってくる可能性は十分に考えられました。対面で少しずつ見直しながら業務として実装していくスタイルでなければ、多分進められなかったはずです」と岩元氏の評価は高い。弁護士としてソフトウェア開発に関するトラブル事案も担当するケースがある岩元氏だけに、定期的にコミュニケーションを取りながらの対面開発というスタイルが、プロジェクトを円滑に進めることができた要因の1つとしてとらえているという。

 また大野氏は「いろいろ無茶な要望も出しましたが、ITに詳しくないメンバーにも使いやすい仕組みを作っていただけて感謝しています。弁護士業務に関する知見がないなかで、しっかりと調べていただきながら我々の要求をうまく飲み込み、実装していただけています。業界のことを理解しようとするアイティーフィットの姿勢にも好感を持っています」と評価する。kintoneの標準機能でできるのか、JavaScriptによる開発が必要なのかその場で迅速に判断できる技術力についても評価の1つに挙げている。

 普段から内輪メンバーのように対応するなど、手厚いサポートの面でもアイティーフィットを高く評価している。「特定サービスの不具合にも親身に対応いただくなど、安心感が得られています。対面開発については、最初に仕様を固めて納期を設定してしまうと、途中経過が見えづらく不安な面も。その点、定期的な開発の場面で進捗確認が容易ですし、秘書と経理がそれぞれ求めている要件をその場で出してもらい、それをうまく咀嚼してまとめてくれる。進め方として我々に最適でした」と羽賀氏。また対面開発によって、関わったメンバーがシステムに愛着を持てたことも大きいという。「苦労しながらプロジェクトを一緒に進めることで、システムに対する愛着はメンバーそれぞれ持つことができているはず。コロナ禍の影響でリモート環境での対面開発を余儀なくされたところもありますが、パフォーマンスを落とすことなくうまく進めていただけています」と大野氏は評価する。

【今後】本店支店含めた事務所の情報基盤としてさらに活用を推進

 現状は利益相反アプリを中心に支店含めて活用されているが、案件管理などリリース直後の機能についてはこれから活用していく段階にあり、支店独自の仕組みをどう移行していくのかはこれからの課題の1つ。啓蒙活動も含めてkintoneの活用をさらに推進していきたい考えだ。「支店での活用が活発になれば、新たに欲しい機能や支店として使いやすい仕組みづくりが求められてくるはず。今後もいろいろお願いしたい」と中山氏。

 また、蓄積したデータが活用できるよう、データ分析に向けた環境づくりにも取り組んでいきたいという。「案件ごとに期間や報酬などの情報が蓄積されてくれば、AIなどの技術も活用することで事前にある程度予測することも可能なはず。データ分析を進めながら、業務運営に生かせないか検討していきたい」と大野氏。マーケティング活動も担当している羽賀氏は「リスティング広告などの運用を行っている関係上、マーケティングに役立つ情報をうまくkintoneに取り込んで、予算配分も含めて広告の適正化に役立つような仕組みも作っていきたい」と語る。

 支店含めて情報が一元管理できる基盤が整った今、数多く在籍する弁護士のシステム活用についてはこれから進めていくことになる。「弁護士業務の中身というよりも、事務所における運用に関して意見をいただきながら、若手弁護士はもちろん、シニアの方にも活用いただきやすい運用を考えていく必要があります。その部分でもぜひお手伝いいただきたい」と今後について岩元氏に語っていただいた。